BOOKS

2017年4月28日 (金)

『蜜蜂と遠雷』

 恩田陸の話題作『蜜蜂と遠雷』(幻冬舎)を読んだ。舞台は国際ピアノコンクール、第一次予選で90余人が24人に、二次で12人に、三次で6人に減らされ、そしてその6人が本選に挑む数日間の物語。目次もそのように章立てされていたので、私も一日にコンクールの一日分(約100頁)ずつ、読み進めた。それだけでも贅沢な臨場感を伴う読書だったが、書物を読むというより、活字から音楽が聞こえてくるようで、言葉でこんなことも表せるんだ、計り知れない力を持っているんだ…と思わされて、感動した。

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 中でも私が好きなのは、第二次予選で、書き下ろしの新曲「春と修羅」をコンテスタントたちが自分の解釈で弾く場面。高島明石は「あめゆじゅとてちてけんじゃ」(宮澤賢治の「永訣の朝」より死にゆく妹の言葉)をモチーフにする。マサルは宇宙の静寂と広がりを、風間塵は自然の猛威と驚異を、栄伝亜夜は塵に応えるかのように命を育くむ大地の安堵を奏でる。ピアニストの感性、イメージする力、世界観…そしてそれを著す作者の筆力に、ぞくぞくせずにはいられなかった。心地よい読書体験だった。

2017年4月 9日 (日)

『よい句をつくるための川柳文法力』

 川柳の大会や投句の締め切りが迫ってきて、少しの時間を見つけては、五・七・五と指を折って句を絞り出している。そこですがり付くのが『よい句をつくるための川柳文法力』(新葉館出版)の本。先月末に開かれた川柳同好会「やまびこ」の勉強会に、筆者・江畑哲男氏がゲスト講師としてお越しくださって、「文法は難しいと敬遠されがちですが、知らないのはもったいない。これを身に付けると表現力がぐんとアップします」とにこやかに話された。
 「ことに女子力ならぬ〝助詞力〟をつけてください(笑)。気持ち、含蓄、深さなど、てにをはの一字を変えるとニュアンスが違ってきます」とのこと。比喩、擬人法などについても、著書には例句を数多く引いて説明、比較がなされ、なんとなく思っていたことが、なるほどと腑に落ちる。さすが高校の国語の先生である。
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 ふむふむ…と読み、秀句もたくさん鑑賞することができた。…が、肝心の作句はなかなか進まない。しばらくもがき苦しむ日が続きそう。

2017年3月21日 (火)

「中東のいま」

 川上泰徳著『「イスラム国」はテロの元凶ではない』(集英社新書)を図書館から借りた。私が半年ほど前に入会した「光が丘図書館利用者の会」が、来月著者の講演会を開くので、にわか勉強に取りかかったのである。
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●緊急連続講座「中東のいま」
日時:第1回 4月1日(土)14:00~16:00「中東で何が起こっているのか」
    第2回 4月8日(土)14:00~16:00「イスラムとは何か」
会場:光が丘図書館 2階視聴覚室
会費:500円/回
お申し込み、お問い合わせは、利用者の会riyosha.hikarilib@gmail.com(電090‐1656‐2404)へ。どうぞお出かけください!

 川上泰徳氏は一年の半分を中東で過ごすジャーナリスト(元朝日新聞記者・編集委員)。講座はいずれも日本との関わりを主にした内容で、二回はもちろんどちらか一回だけでも、リアルな話が聞けること請け合いである。
 好みの小説をウキウキと読むのとはワケが違い、上記の新書はなかなかスラスラとは読めない。だからこそ講演のかたちで話をうかがうのがとても楽しみで、練馬区にお住まいと聞いて勝手に親近感を抱いている。

2017年1月20日 (金)

『家康、江戸を建てる』

 図書館に予約しておいた本を手にした。門井慶喜著『家康、江戸を建てる』(祥伝社)。半年以上経って、ようやく順番が回ってきたのである。本は読みたいと思ったときにすぐに手に入れるのもいいが、ちょっと忘れていた頃に不意に向こうからやってくるという出会いもなかなか楽しい。
 1590年、秀吉から関八州への国替えを打診された家康が、家臣らが「断固拒否すべし」と猛反対する中、「関東には未来(のぞみ)がある」と、江戸の街づくりを決断する。第一話から五話まで、「流れを変える」「金貨を延べる」「飲み水を引く」「石垣を積む」「天守を起こす」と、目次のタイトルを見るだけでも胸が躍る。著者は、本名が徳川最後の将軍と同じ慶喜なのだとか。書かれるべくして書かれた内容と期待できそう♪
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ブログを始めて1年半、今日は200本めの記事だった。

2016年11月22日 (火)

『眩』と北斎美術館

 朝井まかて著『眩(くらら)』(新潮社)を読んでいる。葛飾北斎の娘お栄を主人公に、父の膝で初めて絵筆を握らせてもらって〝眩々(くらくら)した〟幼時から物語は始まる。親子で絵に没頭し、そりの合わない母、疫病神のような甥、心の支えとなる絵師仲間などとの人間模様を絡めながら、「挑む方が面白いじゃないか」と気丈なお栄の、描くことにクラクラと魅せられながら打ち込む姿がかっこいい。本の表紙になっている「吉原格子先之図」を仕上げ、60歳を前に新たな出立をするところで物語は終わる。11223
 浮世絵師・北斎は「卍」の号を持つ川柳人でもあったこと、昨年私が見たアニメ映画『百日紅』(杉浦日向子作)も北斎とお栄を取り巻く話だったことから、とても親近感をもって読み始めた…ところへ、もう一つ巡り合わせが重なった。本日、墨田区に「すみだ北斎美術館」がオープンしたのである。北斎は墨田区に生まれ、93回転居しながら生涯のほとんどをその地域で過ごしたとか。斬新なデザインの建物に北斎一門の作品約1800点を所蔵。誇らしい江戸文化に会える場所として、人気を集めるに違いない。

11222_2  11月19日の朝刊記事に、展示物の一つである北斎とお栄の再現模型の写真があった。『眩』を読んで、まさに想像していた通りの光景だった。

2016年11月 5日 (土)

図書館で朗読会

 光が丘図書館で「わたしの好きな星野道夫」と題して朗読会が行われ、主催した「図書館利用者の会」の一員として、私も朗読することになった。選んだのは、『旅をする木』(文春文庫)から「もうひとつの時間」。都会でせわしく暮らす同じ瞬間、北海道のヒグマが倒木を乗り越え、アラスカの海でクジラが飛び上がっているかもしれない。そういった〝もうひとつの時間〟が確実に流れていることを意識できるかどうか、その差は実に大きいというメッセージである。そのほか手紙形式のエッセイや池澤夏樹の解説など、示唆に富む文章が詰まった一冊だ。11052
 数人が朗読した後、輪になってトークのひととき。アラスカに行ったことのある方、国語の先生だった方、ブックトークを手掛けた方…等々、それぞれが星野氏への想いを語った。星・野・道・夫という名前自体が彼の人生を示しているようで、これがペンネームでなく本名なのも、気づいてみれば不思議である。11051_2
 紅葉の季節になり、今日の着物はこの組み合わせ。並木の銀杏が一部この帯の色になっていた。11053

2016年10月24日 (月)

図書館の休日

 今日は図書館休館日。館内ではスタッフの皆さんがふだんできない書物整理、非常ベルの点検、ミーティングなど大忙しだが、写真のように人の気配がないと、本の精や言霊が不思議なことを始めそうな気がする。10243_2
 さて、私が休館日に入館したワケは「図書館利用者の会」の活動で図書の展示をするためである。明日から始まる展示のテーマは『異文化探訪③カナダ、アラスカ、北極圏』。
 対象本を探すために、地下の閉架書庫に初めて入った。静かに眠っている蔵書のほか、整理を待っているらしい資料がたくさんあって、書物を扱うスタッフの堅実な〝体力仕事〟を想像した。

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 集めた本は、冒険・探検記、動物記、写真集、オーロラ研究、移民の歴史、赤毛のアンシリーズ、彼の地を舞台にした小説等々、150冊ほど。イヌイットの音楽CDもある。それらをメイン通路の両脇10カ所ほどに、手に取ってみたくなるように、素敵におもしろそうに配置する。本屋さんはいつもこんな気分で本を扱っているのだろうな。めでたく展示の本が借り出されたときのために補充用の本もスタンバイした。10244
 展示は、明日10月25日~11月27日まで、練馬光が丘図書館にて。ふだんと違う本と出合うきっかけに、どうぞ覗いてみてください。
 11月5日(土)13時半から、アラスカにちなんで、『わたしの好きな星野道夫』の朗読会も行われます。よろしかったら聞きにいらしてください。

2016年10月 1日 (土)

図書館のイベント

 地元の光が丘図書館には、20年前の開館以来「利用者の会」があって、本好きなメンバーが利用者としての声を届け、イベントを企画して、図書館の運営に参加、協力している。
 毎月第1土曜の午後に例会が開かれ、今日は今月末から始まるテーマ展示「異文化探訪③カナダ、アラスカ、北極圏」の準備。テーマに沿った本を150冊ほどピックアップし、通路の柱部分に関連付けてディスプレイするという。星野道夫、植村直己、大庭みな子、モンゴメリ(赤毛のアン)などの著作物がずらりと集まった。「この本、いいのよ」「○○はどうかしら?」等々、会員の皆さんの読書好きがよくわかる。

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 テーマ展示「異文化探訪③カナダ、アラスカ、北極圏」は、10月25日~11月27日。まるごと星野道夫の朗読会『わたしの好きな星野道夫』は、11月5日(土)1時半~。サイエンスの講演会は、2月4日(土)1時半~。

 本を予約し、借りるだけだった図書館に、こんな活動があったのを、遅ればせながら知った。とてもおもしろそうだ。

2016年9月10日 (土)

『江戸へおかえりなさいませ』

 待ってました、杉浦日向子さん! 11年前、癌のため46歳で亡くなった彼女の単行本未収録のエッセイやイラストを集めた本が、5月に河出書房新社から出版された。前書きや後書きは当然ないのだが、編集者の断り書きも、作者プロフィールに没年の記載もなく、「余計な詮索抜きで読んで」とメッセージが聞こえる。

 どの文章も江戸への愛がしみじみ感じられ、例えば、「〝本物〟を味わう極上の愉しみ」で、蕎麦通の日向子さんは、浮世絵を見る事と、浮世絵の写真製版を見る事では、「かんだ藪の天ぷらそば」と「マルちゃんの緑のたぬき」ほどの違いがあるという。「実際の浮世絵に鼻先を近付けなければ、和紙の毛羽立ちや、刷りのでこぼこのあわいから溢れ出す、饒舌なささやきに浴する愉しみは味わえない」と書き、「浮世絵を飛び切りウマク見せてくれる所」として、原宿の太田記念美術館を薦める。もう、すぐにでも行ってみたくなってしまう。0910

 表紙は江戸を俯瞰したようなペン画。木立や家並みがあり、川が流れた先に帆かけ舟が連なり、遥かに富士を眺める。上空に薄紅の桜吹雪があしらわれ、橋の通行人から吹き出しが出て、「ナント、生きた甲斐がするじゃアないか」。声の主は今も江戸に生きている日向子さんだ。

2016年8月31日 (水)

『春に散る』

 朝刊に連載されていた沢木耕太郎氏の小説『春に散る』がラストを迎えた。文芸欄1ページを割いての掲載だった。「散る」という題からして主人公は命を落とすと最初からわかっていても、章の題が「花の道」となっていよいよ終盤と覚悟していても、一日でも長く読んでいたかった。
 老いた元ボクサー4人が再会、シェアハウスで同居し、資質ある若者に自分たちの技を教え、彼がぐいぐい成長…、胸のすく展開だった。ボクシングはほとんど興味がないのに、毎朝この小説がそれはそれは楽しみだった。「リングの上で無限に自由になる」とはどういうことなのか、最終回はあまりに見事で、読み終えてしばらくぼーっとしてしまった。

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 生の沢木氏に、一度遠くからお目にかかったことがある。かつて、息子の通っていた高校の文化祭で、氏の講演が行われるというので駆けつけたのである。男子校だから、モハメド・アリを皮切りに闘う男の話をしようとしていらしたのに、聴衆は私のような母親ばかりで、さぞ驚かれただろう。それでも若者向けに、「人と会ったとき、この人はどれくらい背丈があるか…単なる身長ではない、真の意味での身の丈ですよ…を見極められるように意識を鍛えておくといい」といった講演をなさったと記憶している。お声も姿もかっこよかった。

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