BOOKS

2018年1月22日 (月)

襲名披露と『国宝』

 先日、東銀座の歌舞伎座ギャラリーを見学に行ったら、歌舞伎の小道具や和楽器などの親しみやすい展示に続いて、三代同時襲名に沸く高麗屋の松本白鸚さん、松本幸四郎さん、市川染五郎さんの記念特別展(1/2~2/25)が開催されていた。それほど熱心なファンではない私でも、魅力溢れるお三方の存在はこの国の財産であると拍手せずにはいられない。

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 歌舞伎に生きる喜久雄、俊介を描く朝日新聞の連載小説『国宝』(吉田修一・作)を楽しみに読んでいる。昨年1月1日から始まったこの物語、第15章「韃靼の夢」で俊介と息子一豊の丹波屋二代同時襲名披露に至る。25話の昨日はその口上で、俊介が自分の親不孝を悔い、出奔したどん底時代に幼い長男を亡くしたのは弱い父親だった自分が殺したのだ、と声を絞り出し、「初日の今日だけはあの子も一緒に、三人でこの襲名披露を勤めさせていただきたい」と続ける。芸事の精進の裏にどれほどどろどろと人間の業が渦巻いているか、この小説は舞台の進行役のような語り口と、状況描写の上手さで惹きつける。時期を同じくして高麗屋さんの慶事、重ねて感じ入ったのは私だけではないだろう。
 今朝の新聞では新しい章「巨星墜つ」が始まり、襲名披露から3年が過ぎていた。喜久雄と俊介の今後に、ますます目が離せない。

2017年12月27日 (水)

2冊の句集

 今年、身近な川柳人2人が句集を上梓された。1月に佐道正さんが『各駅停車』を、12月に永井天晴さんが『雨男晴男』を。月刊『川柳マガジン』を手がける新葉館出版のeブックスシリーズで、文庫本サイズの1頁に3句ずつ、ざっと300句が掲載されている。12151
 『各駅停車』は、「ユーモア句集」と副題にあるように、くすっと上質な笑いを誘う句がずらりと並ぶ。何人かの居る席で、この1冊のどこでもいいから頁を開き、中から1句を披露すると、誰が読んでも誰が聞いても途端に場が和む、そんな本である。ユーモア句を「ザ川柳オブ川柳」とする筆者の魅力が溢れており、好きな句がありすぎて選べないので、4つの章の各冒頭に掲載された句を記す。精鋭を揃え飲み放題に行く/お冷でございます みたらわかるわい/家出するには絶好の晴れた朝/鈍行と言われ各停かわいそう

 『雨男晴男』は、タイトルや装丁が表すごとく中身もくっきりしている。「ケーキ作りの半世紀」「一人称」「天晴流川柳」「希望(娘の交通事故)」の4章立て。2章で「自慢ですちょっぴり私似の娘」と詠んだお嬢さんが今年3月、事故に遭ってしまった。4章で「腫れた脳支えきれない頭蓋骨」「意識ゼロ心臓だけが動いてる」と刻々と事実を追う五七五が胸を打つ。「これでよく死ななかったとただ感謝」「呼びかけに右手で合図し始める」と回復し始め、最終句は「目力の強い娘は立ち直る」。祈るというより信じる五七五である。様子は筆者から直接聞いていたけれど、句集にまとめられたものを読んで、川柳ってこんなこともできる、こんな力もある、とあらためて知った。希望を信じます。

2017年12月 1日 (金)

ミステリーの米国版

 9月末のこと、アイオワに旅行して旧知のアメリカ人と食事をしたとき、一人が読んで面白かったという日本のミステリーの話を始めた。「ええと、作者は…KEI何とか…、タイトルには“X”がついて…」と聞いて、東野圭吾の『容疑者Xの献身』だとピンときた。KEIとX、外国人には記憶にとまりやすいな、と改めて気付きもした。その本なら10年ほど前に私も読んだことがある。「黒いバックに赤いバラが一輪浮かび上がっている本でしょう?」と言ったら「そんな表紙ではなかった」とのこと。帰国して図書館で調べてみたら、『The Devotion of Suspect X』は確かに全然違う体裁だった(写真)。私はあの装丁のメッセージも含めて、あの作品が好きだったのだけれど。
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 それはさておき、中身の、私が感動した部分が英語でなんと表現されているか、興味が湧いた。物語は…
 夫の暴力から逃げていた妻と娘が(ほぼ不可抗力で)彼を殺害、それを知った隣人の数学教師・石神(容疑者“X”)が完璧なアリバイを仕立てて母子を守る。石神には、この母子に出会って自殺を思いとどまった経緯があった。
原文:人は時に、健気に生きているだけで、誰かを救っていることがある。
英文:Sometimes, all you had to do was exist in order to be someone's savior.
(ふーん、主語が変わると感じが違うものだな。〝健気に〟はどの単語に込められているのだろう)

 石神の献身により、警察は最後まで、自分が犯人だという彼の嘘を証明できない。ただ一人、石神のかつての学友・湯川が謎を解いて彼女に推理を告げる。すべてに気付いた彼女は、警察で石神の前にひれ伏す。
原文:「ごめんなさい。申し訳ございませんでした。あたしたちのために…あたしなんかのために…」
英文:“I'm sorry. I'm so very sorry. What you did for us...that thing you did for us--”

(あたし〝なんか〟を英語でどう表すのだろうと思っていたけど、前後の文章の流れから伝わるニュアンスがあるんだろうな)

 ラストは、自分も一緒に罰を受ける、と泣き崩れる彼女に、石神は魂を吐き出すかのような叫びを上げ続け、幕となる。
 ほかにも何カ所か日本語と英語を比べてみて、〝ちょっと違う〟感があるのは個々のセンテンスで見ているせいもあろう。もっと大きくつかめば原作を生かした訳がなされているのだろう。原文と英文とは別ものなのだ。当たり前だけれど、この作品を最初に書くのに使われた日本語が私の母語でよかった。

2017年11月 5日 (日)

日曜夜の『陸王』

 10月からの新番組で一番おもしろいドラマは日曜夜9時の「陸王」だ。池井戸潤の原作を読んだ時、どれほど感動しただろう。それを今回、テレビで原作に忠実に、いや忠実以上の映像化で描いてくれているのだ、楽しみでたまらない。
 足袋製造の「こはぜ屋」が人間本来の走り方ができる素足感覚のランニングシューズの開発に挑む。アイディアも技術も持っている、情熱も志もある、チームワークもピカイチである。しかしお金がない、お金だけがない。銀行は実績がないの一点張りで融資できぬと突っぱねる。主人公たちが何度も挫折しながら立ち上がる過程や、ラストの胸のすく結末を知っていながら、毎回ハラハラし、ほろりとさせられる。

1105 小説を読みながら、自分なりにシーンを想像していたつもりだが、新商品「陸王」がランナーの足元であれほど美しいものだとは、ドラマ化されて初めて気が付いた。ランナー役の俳優・竹内涼真クンのおかげと思うけれど。

2017年10月 8日 (日)

プレゼントされた本

 30年前も今回も、アイオワでお世話になったRさんが、「日本からあなたたちが訪れている間、政局の話には敢えて触れなかった。実際は国際情勢にしろ、国のリーダーにしろ、心の痛むことばかりだけれど…」と言って、別れ際に一冊の本をくださった。明るい花柄の包み紙から現われたのは、『We Are the Change We Seek』-バラク・オバマ氏の演説集-。中身をすらすら読むことはできないけれど、表紙と厚みを見るだけでも、苦難を乗り越えてきた歴史、この国の良心、志に思いを致し、それらを忘れまいと思う。
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 日本を離れていた1週間ちょっとの間に政党が消えたり生まれたり、複雑な情報にようやく頭が追い付いたところである。明後日は総選挙の公示日。「他の誰かや別の機会を待つならば、変化は訪れない。我々こそが、我々が求める変化なのだ」…本のタイトルを含む一節を、そして彼の地からこの本が贈られたことを忘れまい。

2017年7月 1日 (土)

戦時下の教育と現代と

 練馬区光が丘図書館で吉村文成氏の講演会があった。大津の国民学校の生徒が描いた絵日誌をもとにした吉村文成著『戦争の時代の子どもたち』をテーマに、図書館利用者の会が主催したもの(6月3日のこの欄でも紹介)。
 カフェ・チャイハナのマスター吉村さん(元朝日新聞記者、龍谷大学国際文化学部教授)にはカフェでよくお目にかかるが、講演をうかがったのは初めてだった。
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 スクリーンで、明るくのびのびした絵日記を8つの技法(対比と描き分け、吹き出し、省略と強調など)ごとに紹介し、その〝自由さ〟が、子守や手伝いで忙しいから手抜きを工夫してのことだったという分析が面白い。そして矢嶋正信校長の「土に親しむ教育」、西川綾子教諭の「この子たちに文化を与えたい、そういう文化がないなら自分たちで文化をつくっていくしかない、そう思って絵日記を描くことを思いつきました」があってこその作品だったという講演内容に、なるほどと感じ入った。
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 さらに講演のエピローグが印象深かった。…教育とは国の未来をつくっていくこと。明治維新(開国)から国民国家の形成のために天皇制教育(忠孝の教育)が行われ、73年後太平洋戦争に突入。敗戦後は民主主義を実践する国民をめざして民主主義教育(平等、公平)が行われ、72年経った。そして今世の中は大変化、私たちはどこにいるのだろう。多数決を重視し、大勢の支持があるからいいじゃないかという。そのもとに〝考える〟個人があるか。臆病なほどに〝考えていく〟ことが大切。矢嶋校長の記した「一人の人間にとって信実なるもの、それは考えることである」が、今あらたに光る。

2017年6月 3日 (土)

図書館の新しい風

 月に1度の「図書館利用者の会」の例会。今日は総会で、会計報告、企画事業についてなど、トータルに検討した。…といっても、堅苦しい会議ではなく、図書館でこんなことができたらいいなぁ、というプランの話し合いである。サイエンス・カフェ、ブックトーク、英語のおはなし会、読み終わった本の交換会等々、おもしろそうな企画が続々! 本を借りにくるだけではもったいない、図書館の活用術もアピールしたいと思ったことだった。

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次のイベントは、
講演会「戦争の時代の子どもたち―瀬田国民学校五年智組の学級日誌より―」
1944年4月~45年3月に大津市の国民学校の女子生徒らが描いた絵日誌をもとにして、2冊の本(『戦争の時代の子どもたち』『少女たちの学級日誌』)ができた。なぜ? どのようにして? 2冊の著者・解説者が講師となって70年前の子どもたちの日常を振り返ります。
日時:2017年7月1日(土)14時~16時
場所:光が丘図書館 2階視聴覚室
講師:吉村文成氏(元朝日新聞記者・龍谷大学国際文化学部教授)
会費:500円
お問合せ:利用者の会 riyosha.hikarilib@gmail.com  

利用者の会の会員も、随時募集しています。どなたでも入会できます。

2017年4月28日 (金)

『蜜蜂と遠雷』

 恩田陸の話題作『蜜蜂と遠雷』(幻冬舎)を読んだ。舞台は国際ピアノコンクール、第一次予選で90余人が24人に、二次で12人に、三次で6人に減らされ、そしてその6人が本選に挑む数日間の物語。目次もそのように章立てされていたので、私も一日にコンクールの一日分(約100頁)ずつ、読み進めた。それだけでも贅沢な臨場感を伴う読書だったが、書物を読むというより、活字から音楽が聞こえてくるようで、言葉でこんなことも表せるんだ、計り知れない力を持っているんだ…と思わされて、感動した。

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 中でも私が好きなのは、第二次予選で、書き下ろしの新曲「春と修羅」をコンテスタントたちが自分の解釈で弾く場面。高島明石は「あめゆじゅとてちてけんじゃ」(宮澤賢治の「永訣の朝」より死にゆく妹の言葉)をモチーフにする。マサルは宇宙の静寂と広がりを、風間塵は自然の猛威と驚異を、栄伝亜夜は塵に応えるかのように命を育くむ大地の安堵を奏でる。ピアニストの感性、イメージする力、世界観…そしてそれを著す作者の筆力に、ぞくぞくせずにはいられなかった。心地よい読書体験だった。

2017年4月 9日 (日)

『よい句をつくるための川柳文法力』

 川柳の大会や投句の締め切りが迫ってきて、少しの時間を見つけては、五・七・五と指を折って句を絞り出している。そこですがり付くのが『よい句をつくるための川柳文法力』(新葉館出版)の本。先月末に開かれた川柳同好会「やまびこ」の勉強会に、筆者・江畑哲男氏がゲスト講師としてお越しくださって、「文法は難しいと敬遠されがちですが、知らないのはもったいない。これを身に付けると表現力がぐんとアップします」とにこやかに話された。
 「ことに女子力ならぬ〝助詞力〟をつけてください(笑)。気持ち、含蓄、深さなど、てにをはの一字を変えるとニュアンスが違ってきます」とのこと。比喩、擬人法などについても、著書には例句を数多く引いて説明、比較がなされ、なんとなく思っていたことが、なるほどと腑に落ちる。さすが高校の国語の先生である。
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 ふむふむ…と読み、秀句もたくさん鑑賞することができた。…が、肝心の作句はなかなか進まない。しばらくもがき苦しむ日が続きそう。

2017年3月21日 (火)

「中東のいま」

 川上泰徳著『「イスラム国」はテロの元凶ではない』(集英社新書)を図書館から借りた。私が半年ほど前に入会した「光が丘図書館利用者の会」が、来月著者の講演会を開くので、にわか勉強に取りかかったのである。
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●緊急連続講座「中東のいま」
日時:第1回 4月1日(土)14:00~16:00「中東で何が起こっているのか」
    第2回 4月8日(土)14:00~16:00「イスラムとは何か」
会場:光が丘図書館 2階視聴覚室
会費:500円/回
お申し込み、お問い合わせは、利用者の会riyosha.hikarilib@gmail.com(電090‐1656‐2404)へ。どうぞお出かけください!

 川上泰徳氏は一年の半分を中東で過ごすジャーナリスト(元朝日新聞記者・編集委員)。講座はいずれも日本との関わりを主にした内容で、二回はもちろんどちらか一回だけでも、リアルな話が聞けること請け合いである。
 好みの小説をウキウキと読むのとはワケが違い、上記の新書はなかなかスラスラとは読めない。だからこそ講演のかたちで話をうかがうのがとても楽しみで、練馬区にお住まいと聞いて勝手に親近感を抱いている。